機が熟す憲法改正 何をどう改正する-教育研究大会討議資料として
全国教育問題協議会 の山本豊常務理事は、8月に行う教育研究大会での憲法問題について、骨子となる部分を討議資料として紹介しました。
1.60年間、なぜ、日本国憲法は改正されなかったのか
昭和20年(1945)、日本を占領したGHQ(連合国総司令部)マッカーサー総司令官の命令で憲法の専門家ではないGHQ民政局スタッフが1週間で原案を作成し、「草案の基本原則を受け入れれば、天皇の身は安泰になる」と威嚇して受け入れを要求した憲法が日本国憲法であり、まさに米国に押しつけられた憲法と言えます。
日本は昭和27年に独立し、その後、63年間、改正されませんでした。
理由としては①容易に改正できないように各議院の総議員3分の2以上の賛成がなければ国会が発議できないし、さらに国民投票で過半数の賛成がなければならない(憲法96条)といった厳しい憲法改正条項を設けたこと②特定のイデオロギーを持った市民団体や政党の反対運動、平和慣れした国民の意識に加え、憲法改正に消極的だった政治家の姿勢などが要因として考えられます。
2.現実味を帯びてきた憲法改正の動き
昨年6月13日の参議院本会議で憲法改正国民投票法改正案が可決成立しました。社民、共産党以外の八党が合意したからです。国民投票法が改正され、衆院と参院がそれぞれ3分の2以上の賛成で憲法改正案を発議すれば、国民投票が実施できる態勢が整ったことになります。
安倍晋三首相は2月4日、自民党憲法改正運動本部長の船田元氏と懇談し、発議は来年の参議院議員選挙以降になるとの認識で一致しました。自民党は首相の意向も踏まえ、衆参両院の憲法審査会で参院選までに改憲の原案を起草し、平成28年秋の臨時国会で国民に発議する日程を想定。可決されれば平成29年に国民投票に持ち込める計算です。
自民党は、外国からの攻撃発生に備える「緊急事態条項」や環境権の新設など、民主党など野党の賛同が得やすい項目から議論を進める方針で、第9条改正は封印し、改憲の実績作りを最優先する姿勢になっています。改憲発議を目指し、安倍首相が動き出した土壌が固まりつつあります。
3.何をどう改正するのか
安倍首相の積極的な姿勢に共鳴し、日本の未来を憂える民間人からの声が高まってきています。日本会議会長の三好達会長(元最高裁長官)、ジャーナリストの櫻井よし子氏らが代表となり、「美しい日本の憲法をつくる国民の会」設立を始め、各地で憲法についての集会が行われてきました。問題は改正条項が第9条のみを問おうとしていますが、現憲法のどこが欠落していうるのか、まとめてみました。
① 日本国憲法前文
前文は612字で書かれていますが、3カ所ある「日本国民」という固有名詞がなければ、どこの国の憲法であるかすらわからない前文となっています。また、前文に「平和を愛する諸国民の公正と信義して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」と明治しています。しかし、現実の世界ではいま「法による支配」を否定し、「暴力による支配」を目指したテロ国家集団の脅威に世界各国は脅えているのが現実であり、日本国民の意識がいかに現実と乖離(かいり)しているかが明白です。
② 天皇の地位
現憲法では「天皇は日本国の象徴」とありますが、政府の公式見解は「天皇は対外的には元首である」が国内法上の地位は不明確です。このため、天皇が外国訪問された際には、日本の元首として栄誉礼を受けますが、外国の元首が来日した時には、その外国元首のみが自衛隊の栄誉礼を受けるため、受礼台に立てますが、天皇陛下は離れたところから見守っているだけという国際的には極めて不自然な慣行が当たり前になっている実態があります。
③ 緊急事態への対応
日本国憲法は平常時を前提とした憲法であり、非常時を想定した規定はありません。阪神淡路大震災、東日本大震災などでの政府の危機対応力の欠如が明白になってしまいました。兵庫県知事の派遣要請が遅れ、多くの人命が失われた人災の側面があります。また、東日本大震災でも深刻なガソリン不足が発生したため、救助・救援活動、緊急支援物資の輸送に支障を来したのが現実です。米国では大統領が非常事態を宣言すると、超法規的にあらゆる措置を大統領命令として執行できます。日本でも憲法に緊急事態に関する規定を設け、その下で政府の施策を事前に明確にし、緊急時に自衛隊、警察、消防、海上保安庁が統一して運用する仕組みを生み出しておく必要があります。
④ 家庭・家族の重要性
現行憲法は第24条に男女平等を原則とした「婚姻」の規定はあっても家族を規定したものではないし、あえて強い表現で「個人の尊重」を謳っています。法的に婚姻関係にない男女から産まれた子ども(非嫡出子)と法に基づいた子ども(嫡出子)の相続権が同等とした最高裁判決が典型でしょう。
また、児童相談所に児童虐待で相談された件数は73000件で20年前の1100件と比較すると73倍にも達しています。
日本社会は世界から安全で秩序ある社会として賞賛されてきました。その基礎になったのが「家庭・家族」です。日本人にとって家族は一時的に生活する共同体の役割のみではなく、祖先から父、母、自分といった縦の系譜を意識する共同体です。平成18年に安倍内閣は教育基本法を改正し、家族・家庭の重要性を明記しましたが、憲法にも社会の基礎となる家族の保護を規定し、わが国本来の祖先を敬い、親子・兄弟を大切にして暮らす家庭生活を守るための諸政策を国が強力に推進していく必要があると考えます。
⑤ 環境保護問題
今まで環境問題は日本では公害問題でも分かる通り、裁判を通して論じられてきました。しかし、時代が変化し、地球温暖化問題、中国の大気汚染の原因となったPM2.5のわが国への飛来問題など環境問題は国際化しています。環境保護はまさに未来の人類を守るため、今、取り組まなければなりません。その場合、これまでのように、個人の権利侵害だけではなく、未来に引き継ぐべき公益の観点から環境問題を憲法論議として取り組む必要があります。日本の美しい自然と国土を守るため、環境を守ることが重要です。
⑥ 第9条戦争放棄
日本は戦後70年、占領軍の強制によって定められた第9条によって守られてきました。しかし、世界情勢は変化し、自衛隊の位置づけが問われているのも事実です。かりに外国の飛行機が東京上空まで侵攻しても、自衛隊機が撃墜できません。できるのは攻撃を受けてから「正当防衛」の条件を無理矢理につくり出す。つまり、自衛官の犠牲に基づいた行動が国民を守る条件になります。
自衛隊に対する制約について中国はじめ周辺国は知っています。中国では人民日報に憲法改正、とくに第9条改正に反対を呼びかけています。日本は国際社会に対して積極的に世界平和の維持に貢献する決意を示すためにも憲法第9条を改正する必要があると考えます。
諸外国の戦後の憲法改正の動きを見ると、世界各国では時代の要請に即した形で憲法を改正し、新たな課題に対応しています。主要国を見ても、戦後の改正回数は、米国6回、フランス27回。第二次世界大戦で日本と同じく敗戦したイタリアは15回、ドイツは58回も憲法を改正しています。日本は戦後、一度も憲法を改正していない極めて不自然な状況が続いています。
この機にあたって、一般社団法人・全国教育問題協議会 では、8月に開催する教育研究集会での講演会、シンポジウムを通して、憲法改正についてより深く理解されるよう願って開催する次第です。
皆様のご意見を取り入れながら、憲法問題をより身近に感じられるテーマとして取り入れ、討議していくことになりますので、大いに意見を提出してください。