考え抜き議論する方向へ転換 道徳教科書検定
教科書検定、すべて合格
「ネットいじめ」など掲載
文部科学省は3月27日、2019年度から中学校で使われる道徳の教科書と、主に高校3年用の教科書の検定結果を公表しました。正式教科になる道徳の教科書は、昨年度に小学校の検定が行われ、中学校は初めて。
教科化に伴う道徳の検定は28年度の小学校用に続くもので、初の中学校用には8社が申請し全てが合格しました。
合格した中学校道徳の教科書内容では、東日本大震災や臓器移植など現代の社会事象や課題を取り上げて、従来の読み物偏重から「考え、議論する道徳」への転換を促しました。
全社が社会問題化する「ネットいじめ」に関する題材を取り上げ、スマートフォンやインターネット交流サイト(SNS)の利用マナーを学習する「情報モラル」も目立ち、東日本大震災や熊本地震などの自然災害、主権者教育、五輪・パラリンピックに関しても全社が扱いました。
道徳教科書に対する検定意見は184件。内容の誤りや不適切な表現のほか、学習指導要領が定めた内容の項目を網羅して取り上げていないことに対する指摘もありました。
昨年3月の小中学校の指導要領改定を受け、対応する教科書の検定は小学校で18年度、中学校で19年度に実施され、それぞれ2年後から使用されます。道徳の検定も18年度以降、他教科と同様のスケジュールで行う予定。このため、今回合格した中学校の道徳の教科書が使われるのは、19~20年度の2年間になります。
高校は、「脱ゆとり教育」路線に転換した現行指導要領になって2巡目の検定。申請のあった国語や英語など共通教科53点と農業と商業の専門教科7点の計60点全てが合格しました。
文科省によると、申請数は中学校道徳が計30冊、高校は専門教科7冊を含め計60冊だった。中学校道徳に付いた検定意見は184で、小学校道徳の244を下回りました。
全体の申請点数が異なるため単純比較はできないが、小中共通の発行会社が多く、編集ノウハウの蓄積により検定意見が減ったとみられます。
中学校道徳検定に申請したのは、日本教科書▽光村図書出版▽学研教育みらい▽廣済堂あかつき▽日本文教出版▽東京書籍▽教育出版▽学校図書-の計8社。検定では「節度、節制」「国際貢献」「国や郷土を愛する態度」など学習指導要領が定める22項目が教科書全体に含まれるかどうかを確認。指導要領に照らして内容が不適切との意見が付いたのは3社で7つあり、いずれも修正して合格。
道徳は23年の大津市での中2男子いじめ自殺を機に教科化の議論が高まり、27年の学習指導要領の一部を改定した経緯があります。今回の中学校道徳では、「ライン外し」などいじめの温床と指摘されるSNSのマナーに関する題材が全社で取り上げられました。
2020年東京五輪・パラリンピックを見据えた題材や新聞を教材として活用するNIE、主権者教育に関する記述も全社に掲載。国旗・国歌関連の題材も目立ちました。
【道徳の教科化】
道徳の教科化 大津市の中学生のいじめ自殺問題などを受け、政府の教育再生実行会議が2013年、小中学校で教科外の活動と位置付けられていた道徳の正式教科への格上げを提言。学習指導要領改定などを経て、小学校は18年度、中学校は19年度から「特別の教科」となる。授業では検定で合格した教科書を使用。主に学級担任が指導し、道徳専門の教員免許は設けません。評価は数値ではなく記述式としています。文部科学省は、特定の考え方を押し付けたり、評価を入試や内申書に使ったりすることはないとしています。
《中学校道徳の学習指導要領の「内容項目」》
【主として自分自身に関すること】
自主、自律、自由と責任▽節度、節制▽向上心、個性の伸長▽希望と勇気、克己と強い意志▽真理の探究、創造
【主として人との関わりに関すること】
思いやり、感謝▽礼儀▽友情、信頼▽相互理解、寛容
【主として集団や社会との関わりに関すること】
順法精神、公徳心▽公正、公平、社会正義▽社会参画、公共の精神▽勤労▽家族愛、家庭生活の充実▽よりよい学校生活、集団生活の充実▽郷土の伝統と文化の尊重、郷土を愛する態度▽我が国の伝統と文化の尊重、国を愛する態度▽国際理解、国際貢献
【主として生命や自然、崇高なものとの関わりに関すること】
生命の尊さ▽自然愛護▽感動、畏敬の念▽よりよく生きる喜び