「くん付け」ダメ、あだ名も禁止は間違い


いまどき小学生の呼び名問題を問う
全国教育問題協議会常任理事 山本豊


最近、小学校で、児童が友達をあだ名で呼ぶことを禁止する動きが広まっているという。

あだ名をつけることが、いじめにつながるという配慮からであろう。

しかし、こういう禁止は馬鹿げているし、実効性がない。

学校がいくら禁止しても、あだ名はなくならない。

それは子どもたちのコミュニケーションにとって不可欠なツール(道具)だからだ。

学校で教師が見ている場所では、あだ名を使わなくても、子どもたちは、おけいこ事、学習塾、あるいは校外で遊んでいるときには、あだ名で呼び合う。

もちろん、あだ名の中には「バイキン」「ゴキブリ」「チビ」「デブ」「ノロマ」など、いじめにつながりやすいものもある。そのような侮辱的なあだ名については、なぜそういうレッテルを他人に貼ってはいけないかについて、丁寧(ていねい)に説明すればいい。

そうすれば、子どもたちはそんなあだ名を使うことを止める。

児童間で「さん」「くん」と呼ぶことを義務づけるのも間違っている。

丁寧な言葉を使っていても、腹の中では相手を馬鹿にしている慇懃(いんぎん)無礼な人間を筆者は外務省で多数見てきた。

小学校のころからミニ外務省のような文化を身につけても、善い大人に育つとは思えない。

あだ名を禁止することが教育だと考える発想に根本的な間違いがある。

子どもの言語表現については、他者に危害を加えるものを除いては自由にすべきである。

「人の名を呼ぶときは男も女も『さん』と呼びなさい。あだ名は禁止です」と指導する教師にその理由を聞くと、「丁寧なな言葉遣いはいじめ防止になる」そうだ。

しかし、子どもは先生の前では言わないけれど、同級生同士は、うまいあだ名をつけるのが自然であろう。

文科省のトップだった前川喜平氏の座右の銘は「面従腹背」。つまり「表は笑顔で接するが、腹の中は反抗する」だが、本音と建て前を子どものうちから使い分ける教育にならないか心配だ。もちろん「チビ」「デブ」といったあだ名は禁止するのが当然であろう。

【あだ名禁止の動き】

 学校での「あだ名禁止」の動きは、いじめ全盛の1990年代後半から見られ始めた。いじめ事案では「嫌なあだ名で呼ばれた」という被害者の言葉が必ず出てくるのでいじめ防止の観点から「あだ名禁止」の気運が高まったことになる。

 2013年施行のいじめ防止対策推進法、2017年発表の国のガイドラインを受け、いじめの早期発見のために子どものあだ名や呼び名に気を配ることが重視されるようになった。

 学校で男女ともに「さん付け」が主流になった背景はLGBT(性的少数者の総称)の主張が拡大し、ジェンダー尊重の考え方が出てきたり、「さん付け」で子ども同士のトラブルが減ったという教師の報告もある。

 一方で「あだ名」「呼び捨て」で呼んだり、呼ばれたりすることで親愛の情が深まったり、コミュニケーションが良好になることもあり、「ジャイアン」「のび太」が「剛田さん」「野比さん」と呼び合うようになったら味気ないなど、「呼び名」に厳しい制約が課されることには賛否両論がある。